歴史総合

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Cover of a book titled 'General History Q&A 100' with Japanese text, featuring historical illustrations and sections about control, how, and build.

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PART I 世界史という問い

Chapter 1 世界史という問い

ユートピア・ディストピア①伊藤計劃『ハーモニー』

Three young women sitting on a bench outdoors, engaging in conversation.

 三人の女子高生、霧慧トァン・御冷ミァハ・零下堂キアンは、「生府」によってすべての個人の中脳に医療デバイスWatch Meがインストールされ、健康で幸福であることを強制される医療社会を憎んでいた。医療社会は、半世紀前のアメリカでの暴動を契機に全世界で戦争が起こり未知のウイルスが蔓延した「大災禍(ザ・メイルストロム)」によって、人間が希少な資源となっていたことから生み出された。トァンは、ミァハの革命思想に共感し、医療社会で禁じられた自殺を試みる。しかし、キアンが生府に密告したため、ミァハだけが死ぬ。長じてWHO螺旋監察事務局上級監察官となったトァンは、生府が管理しない紛争地域で禁じられた不健康行為である飲酒喫煙を行っていたが、発覚し日本に送還される。トァンと会ったキアンは「ごめんね、ミァハ」といい食事中のフォークで自らを刺し、自殺する。その瞬間、世界中で「同時多発自殺事件」が発動する。トァンは捜査を開始し、ミァハが死んでいなかったことを知り、人間の意志を操る「次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ」が生府上層部に存在し、同時多発自殺事件にも関与していることを究明する。そのとき、「同時多発自殺事件」実行犯がテレビ放送で、「健康・幸福社会を壊すため、1週間以内に誰か1人を殺さなければ、世界中の人間を自殺させる」と宣言する。健康で幸福なユートピア―医療社会は、人と人が自分が生き残るために殺しあうデストピアに変貌する。トァンは、「同時多発自殺事件」がミァハが謀った医療社会への復讐・革命だと察する。

 ミァハは、人間の意志を制御することで「ザ・メイルストロム」の再来を防ぐ「ハーモニー・プログラム」の過激派であった。「ハーモニー・プログラム」は、人間の意識を消滅させるメカニズムであった。ミァハはソビエト連邦崩壊時のコーカサスの紛争地域チェチェンに存在した「意識のない民族」の出身だった。トァンは、ミァハの待つチェチェンでの痛みと苦しみのなかで、Watch Meが、人間から病と病と感じることを「外注」に出したことを認識する。ミァハは、再会したトァンに、ハクスリー『すばらしき新世界』を引き、彼女の思いを告げる。「人類はザ・メイルストロムのあと、真理でなくまやかしの幸福と永遠を選択し、進化のその場その場の適応パッチの塊で、継ぎ接ぎの出来損ないな動物であることの否定を選んだ」と。トァンはミァハに自分の意思で弾丸の引き金を引き、「わたし」という人間の意識が消滅する。

 伊藤の逝去後、神林長平は同書への書評とも随筆とも虚構ともつかぬ掌編「いま集合的無意識を、」で、伊藤の「計劃(プロジェクト)」が人間の「意識」をダーウィニズムに還元し、フィクションの力を消滅させることにあったと論じる。SNS・ビッグデータ・AIによって「人間の集合的無意識を顕在化するテクノロジーを手に入れて、それを意識しようとしている」現代において人間の意識と意志はどのようにして可能か? 

01世界史を地球史のなかでどう位置づけるか?人新世
Q04 なぜ鎌倉武士団は蒙古軍を撃退できたのか?
Q07 なぜ「世界史必修」は挫折したか? 歴史総合
Q02 なぜユーラシア大陸で文明が発達し南北アメリカ大陸で発達しなかったか?
Q05 なぜ日本は資本主義化できたか? 文明の生態史観
Q08 歴史総合の構成はどうあるべきか? 天命史観
Q03 「世界史」はいつ始まったのか? モンゴル
Q06 どのような国が経済成長するのか? 狭い回廊
Q09 歴史をさかさまにみてみると何が見えるか? ”逆さ”世界史

Chapter 2 米中シン冷戦の構図(2000-2020)

ユートピア・ディストピア②馬伯庸『沈黙都市』

Four people sitting at a table during an interview, with a woman holding money and thinking about paying them.

 プログラマー・アーバーダンは、真正IDウェブアクセス制度の下、「健全語」以外の使用が禁止されている2046年のある国の首都で暮らしている。国の名前はない。国が一つしかないからである。国境のむこうにはべつのウェブサイトがあるとの噂も聞くが、都市伝説にすぎないと信じている。真正IDウェブアクセス制度は、「健全で安定したウェブをつくろう!」というスローガンの下、ウェブ管理を適切かつ合理的にし、匿名性による「深刻な問題」を排除するためであると「関係当局」は説明している「関係当局」はすべてを管理し、指導・監視・警告を行う。サイバー上のセンサーシップ(検閲)があるのではない。「関係当局」は、「健全語リスト」に記載された単語と固定表現だけを使用するようすべてのウェブユーザーに強制している。綴り替え・同音異義語・押韻俗語を使って不健全な思想を表現する試みを人々がいたためである。リストにない単語がウェブ上で混じっていると「遮断」され、遮断された単語は書くことも話すことも禁止されている。「遮断」をいう単語それ自体も遮断されている。

 ある日、BBS申請をしたアーバーダンは、申請書類に潜むキーワードの秘密を解き、毎週日曜に開かれている「会話クラブ」への参加資格を得る。そこでは、通常の日常生活では許されない「自由な会話」がされ、禁書であるオーウェルの『一九八四年』の読書会が開かれ、BBS申請所で働く女性アルテミスとの親密な交流をもった。会話クラブのメンバー・ワグナーは言う。『一九八四年』は全体主義の伸長を予言したが、技術の進歩は予言できなかったと。『一九八四年』の舞台オセアニアでは、秘密のメモを渡すことができたが、現在のウェブ上では、ネット上の伝言はウェブ統制官から丸見えなのだ。

 会話クラブに参加するようになって、アーバーダンは、ウェブ上の言葉に秘められた暗黙の表現に気づいていった。市民と「関係当局」の戦いは終わっておらず、思想や言論はすきまからかならず漏れてくる。アルテミスは、『一九八四年』でヒロインが主人公に「あなたが好きです」というメモを渡した話をアーバーダンにする。「愛という言葉は、関係当局が配布している健全語にないわ」とも。アーバーダンは、この会話クラブ以外にも秘密の集まりが国内にあることを知る。ワグナーは、首都から遠く離れた山間部に過激派がいるが、そこは僻地で会話の自由以外は清潔な水すらないと教える。しかし、関係当局は新型の高出力アクティブ式リスナーを導入し、室内の会話における要注意語の使用の監視に成功し、会話クラブのような秘密会合を一斉逮捕する。

 健全リストはどんどん少なくなり、ついに今朝配布された最新の健全語リストは空白だった。アーバインは再会したアルテミスに何か伝えようと唇を動かそうとするが、最後の一語も「関係当局」に遮断されていた。都市は沈黙した。幸い、アーバインの脳内の思考を遮断する技術はまだなかった。失うもののないアーバインは、山間部に向かう。

Part III パクス・アメリカーナの100年

Chapter 3 冷戦終結とプラザ合意(1981-2000)

ユートピア・ディストピア③J・G・バラード『楽園への疾走』

Two children on a boat in a body of water, pointing toward mountains and birds in the sky with palm trees along the shoreline in the background.

 イギリス人の少年ニールは、核実験に立ち会ったせいで死亡したと思われるしき父を持つ経験から、核爆発による世界の終末という願望を胸に秘めている。彼は、「アホウドリを救え!」をスローガンによるタヒチ沖のフランス領サン・エスプリ島でのデモに参加する。フランスは、サン・エスプリ島にアホウドリを含む希少生物が棲息しているにも関わらず、それらを軍事基地を造るために虐殺し、さらに核実験を行おうとしていた。

 デモのリーダーは、患者を安楽死させた件で医師免許を剥奪された元医師ドクター・バーバラ、40代の精力的な女医であった。ニールは徐々にバーバラに魅かれていく。バーバラはメディアを巻き込みながら、「ジュゴン号」という船で島に向かう。島へ侵入する際、ニールは、フランス軍に銃撃され、この件がメディアを通じて世界中が知るところになると、ニールは環境保護運動のシンボルに祭り上げられる。その結果、デモ隊は再び島に向かう。上陸した彼らを再びフランス軍が襲い、この事件が衛星テレビによって世界中に配信されたたため、フランスは世界中から批難を浴び、フランス軍は撤退する。

 世界的注目と支援を受けて、バーバラらは、自然保護区として守られることになったサン・エスプリ島に、世界中から絶滅を危惧される動植物を集め、さらにはデモ隊による孤立した自給自足生活を開始する。彼らはサン・エスプリ島を本物の楽園に作り替えようとしたのだ。ごく普通の環境保護運動は次第に変調を始める。リーダーであるバーバラは、サン・エスプリ島に女性優位社会を構築する。その閉ざされた社会で、男性たちは魚を捕り、子孫を残すことのみに奉仕させられる。そして、女性たちは男性を殺し始める。バーバラの狂気が島をユートピアからディストピアに変貌させていく。

 少年時代を上海共同租界で過ごしたバラードは、『太陽の帝国』に描かれたように、大日本帝国の戦闘機零戦に憧れたのであろうか。バラードはまた自身の代表先『沈んだ世界』―高温多湿の水浸しとなった地球を描く―が大岡昇平『野火』が描く地獄での恍惚に影響を受けたと語る(『季刊W-SF』10[1975:72])。『野火』が描く、地獄の中に見出した戦場と飢えの狂気の中の恍惚をバラードは楽園の中の地獄に発見したのか?

Chapter 4 ニクソン・ショック50年(1961-1980)

ユートピア・ディストピア④フィリップ・K・ディック『高い城の男』

Black-and-white hand-drawn portrait of a man with glasses looking at an open hand, illuminated by a spotlight.

 サンフランシスコでアメリカ芸術工芸品を商うロバート・チルダンにとって、通商代表部の日本人・田上氏は、屈辱的な振る舞いをされても文句を言えない、工芸品を買ってくれる上得意であった。そう、この世界線では、第二次世界大戦が枢軸国の勝利に終わり、世界は大日本帝国とナチス・ドイツによって分割占領され、旧アメリカ合衆国領の大部分(西部)は日本の支配下にあるのだ。一方、ヒトラーの後継者ボルマン率いるナチスは、月面にも手を伸ばしていた。第二次大戦の勝敗が逆転した世界の地下出版界では、中国の占いの書『易経』と、ナチスが支配するアメリカとヨーロッパで発禁となっていた『イナゴ身重く横たわりて』がべスト・セラーになっていた。同書は、「高い城の男」と呼ばれる謎の男が執筆したとされる、「第二次世界大戦でアメリカと連合国が勝っていたという「歴史改変SF小説」であった。「高い城の男」に会うための旅を続けていたジュリアナは、『易経』に導かれるまま、「高い城の男」がいるシャイアンに向かう。一方、チルダンは、日本海軍の春沢提督の使者から「あなたが扱っている美術品は模造品だ」と告げられ、美術商としてアメリカ人として自尊心を傷つけられていた。しかし、新聞社に問い合わせると、春沢提督の乗艦と聞いていた航空母艦翔鶴は戦時中にアメリカ軍の潜水艦によって沈められており、春沢提督なる人物も存在しないことが判明し、この世界に対する謎を深める。ドイツでは最高指導者のボルマン首相が死去した結果、ナチ党内部の権力闘争が激化し、ボルマン政権の後継ゲッペルス政権は対日核攻撃作戦「タンポポ作戦」をすすめる。チルダンは、美術品取引で、自分が扱っている歴史の浅い紛い物とは違う正真正銘の「アメリカ」を感じさせるブローチ「銀の三角」を手に入れ、アメリカ人としての自信を取り戻す。「タンポポ作戦」を知った田上は、戦を阻止するが、チルダンから入手した「銀の三角」の輝きに魅せられた田上は、戦勝国人(であるはずの)日本人にアメリカ人がへりくだらないもう一つのアメリカに迷い込んでしまう。戦勝国にとってのユートピアは虚構だったのだ。シャイアンに辿り着いたジュリアナは、「高い城の男」に、何故『イナゴ身重く横たわる』を執筆したのか問う。「高い城の男」は、「易経との契約に基づき書いた」と告白する。ジュリアナは、何故易経が『イナゴ身重く横たわる』を書かせたのかを知るため易経を行う。そして『イナゴ身重く横たわる』の世界こそが真実の世界であると悟る(ドラマ版『高い城の男』はNetflixで配信中)。ヘーゲルは「現実的なものは合理的である」と記した。この言葉は、体制を擁護する保守論と不合理な現実を改変する革命論の両義をもつ。目に見える現実の不確実性に潜む真実はどこにあるのか。 

Chapter 6 ベルサイユ・ワシントン体制(1921-1940)

ユートピア・ディストピア⑤ザミャーチン『われら』

Rocket launch with smoke and flames at the base, tall launch pad, and transmission towers in the background.

宇宙船インテグラルの建造技師・Д-503が住む26世紀の地球は「恩人」が支配する「単一国」に統治されていた。120日後に、人類はインテグラルの建造を完了し宇宙の何千もの他の地球を開拓することによって、壮大な宇宙の無限の方程式を積分(インテグラル)する予定だ。野蛮な曲線を伸ばしてまっすぐにし、接線に、漸近線に、直線に近づける。なぜなら、偉大で神聖な「単一国」の線はあらゆる線の中で最も賢い直線だから。「二百年戦争」によって成立した「単一国」は、この戦争以来誰もその外側に出たことのない「緑の壁」に覆われ、人々は、ナンバーによって管理され、すべてのナンバーが性的産物としての任意のナンバーに対する権利を有する共産社会であった。そこには古代の野蛮な嫉妬心も存在しなかった。Д-503は、女性O-90と、嫉妬心という分母がゼロゆえに無限数である幸福を感じていた。友人の「国家詩人作家研究所」の詩人R-13は言う。楽園のアダムとイブには、自由なき幸福か、幸福なき自由か、選択肢が与えられていた。間抜けな二人は自由を選んだ。その結果、何世紀にわたって枷を恋しがる世界苦が生まれた。「単一国家」に住む「われら」は再びアダムとイブのように純真無垢となり、善悪の混乱はなくなった。Д-503は、謎めいた女性I-330の誘惑と計略に乗り、「単一国」で禁じられている飲酒喫煙を楽しみ、「恩人」配下の「守護者局」を裏切る。I-330はインテグラルの建造技師・電気技師・機械技師らを取り込みインテグラルの乗っ取りを謀らむ組織のメンバーとしてД-503に接近したのだ。O-90は、は、I-330に「嫉妬」し、Д-503から離れていく。Д-503は、Д-503は想像力摘出手術を受け、「恩人」のもとに出頭し、I-330ら「幸福の敵」について告白する。叛逆者集団の計画は露見・逮捕され、I-330から解放された。Д-503は、「病気」から回復し、「幸福」を取り戻す。そして日記に記す。「理性は勝利しなければならないからだ」私は私であると同時に、私ではない「われら(We)」なのだ。ザミャーチンは、1921年に発表した同書で、「二百年戦争」になぞらえてロシア革命を痛烈に批判した。ザミャーチンは作家であると同時に、砕氷船造船監督として第一次大戦時のロシアの砕氷船造船の大部分を担った。プロレタリア批評家は『われら』を執筆したザミャーチンを「反革命のブルジョア作家」として批判した。『われら』は第二次大戦後、オーウェルによって再評価される。訳者松下隆志が指摘するように『われら』は単純な「ロシア革命=全体主義」的」レッテル貼りの批判ではない。ザミャーチンは彼の革命思想を作中I-330に語らせる。最後の革命などない。革命は無限だ。「最後」など自然界にはない。「二百年戦争」により成立した「単一国家」はガリレオと同じ誤りをおかしている。地球が太陽の周りを動いているのは正しいにしても、ガリレオは、太陽系全体がさらに別の中心の周りを動いていることを知らなかったのだ。

Chapter 7 明治維新と世界資本主義(1820-1920)